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天神橋駒鳥シネマ vol.7

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いったい僕は、なんでこんなことしてるんだろうか?

 

それはコマドリ館長の突然の一言から始まった。

 

 

 

「バイト君、野球するで」

 

「ハイ?今なんて言ったんで……」

 

「だから、野球するねん。ええから来い!」

 

 

や、野球!?いきなり何を言い出すのやらこの人は。
だいたい僕みたいな映画とか好きなものが、
スポーツとかできるわけないでしょうが!?
ルールもよくわかってないんですよ!?

 

 

「い、いや。ボ、僕、本当に野球ってしたことないんです!無理ですって!」

 

「大丈夫!相手、ええ歳こいたおっさんばっかりやから!黙って来んかい!」

 

 

 

と、いうことで淀川の河川敷。

いつの間に用意したのかユニフォームとグローブを渡されて、気がつけば8番・ライト。
胸に輝く「天神橋クックロビンズ」のロゴ。

 

対するは本当におっさんだらけの「天満橋サクラサイターズ」。

お腹の出っ張り具合にこれならもしかしたら勝てるかもと、我が軍を見渡すと……
ヤクザの親分らしき人とその子分、ひとりで映画ばっかり見てる小学生、
コンビニ弁当もったおっさん……って、駒鳥シネマの常連ばっかり。

 

 

 

「スイマセンー。遅くなりましたー。」

 

その聞いたことのある声。

 

あ、あなたは駒鳥シネマに似つかわしくない、
あの可愛いコちゃんな娘さんじゃないですか!?

 

 

 

「おぅ、ホンマに遅いやんけ。なんや便所でも行っとったんか?」

「館長さんがくれた地図が間違ってたんですよ。ホラ。」

 

「……まぁ、来れたからええがな。ほな始めよか……」

 

 

「な、なんであなたがこんなところにいるんで……」

 

 

「プレーボール!」

 

 

と、気がつけば9回。どうなってることやらわからないまま、
1対0、天神橋クックロビンズのリードの最終回裏2アウト。

最後のバッターを抑えるとクックロビンズの勝利という場面で、
僕はただただ、4番でピッチャーの娘さんの後ろ姿を
呆然と眺めつつライトに佇むしかなくて……。

 

 

 

「よっしゃ!最後のひとりや!掛け声いくでー!クックロビンーズ!」
「(全員で)どんどん!」

 

 

 

 

娘さん投げる!豪速球!最後のバッター、
諦めて適当に振ったバットにたまたまヒット!

ボールは綺麗な放物線を描いてライトへ……。

 

これを取ったら試合終了だ!
娘さんにいいところが見せられる!
取るんだ、僕、このボールを絶対に取るんだ!

 

 

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「あ~あ、あん時バイトがエラーせんかったら勝っとったのになー。
お前今月バイト代抜きやで」

 

「……本当にスイマセン。せっかくいいとこ見せるチャンスだったのに……」

 

「お前のいいとこなんか見たないわい!」

 

みんな泥だらけの帰り道。足取りは重い。

 

「(あんたに見せるんじゃないよ)でもコマドリ館長、
なんで急に野球をしようと思ったんですか?」

 

「まぁ、どうでもええがな、そんなこと」

 

「バイトさん、駒鳥シネマの明日からの追悼上映会のプログラム、
見たらわかりますよ。」

 

「え、娘さん……あ、ハイ、ええと……『仁義なき戦い』に
『トラック野郎』に……、あ、なるほど。これですね……」

 

「そう。これでも館長なりの追悼のつもりなんですよ。
ということでワタシ、用事があるので、お先です!」

 

「あ、と、ちょっと!なんで娘さんはこんな野球に参加して……」

 

と言いかけたところで、館長にポンと肩を叩かれ

 

 

「お前はその前に罰として、素振り1億回じゃ!」

 

そんなわけで追悼上映会が始まったにもかかわらず、
なんでこんなことしてるんだろうか?と思いつつ、僕はバットを振り続けているのです……。

 

 

 

「バイト君!全然腰が入っとらん!更に追加百本や!!」

 

 

 

 

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「今月の上映作品」「ダイナマイトどんどん」(1978)

監督:岡本喜八

出演:菅原文太、宮下順子、北大路欣也、嵐寛寿郎ほか

上映時間:142分

 

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終戦直後、エスカレートするヤクザ抗争を解決するため、
警察署長の提案で、抗争に代えてヤクザ対抗野球大会が開かれることになるが……。
名匠・岡本喜八監督、主演・菅原文太の痛快コメディ映画。
キャッチコピーは「ひとり残らずデッドボールでぶち殺しチやれ!
さぁみなさんご一緒に「ダイナマーイツ!」「どんどん!」

 

 

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【登場人物紹介】

駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館、
「天神橋駒鳥シネマ」の館長。お人好しで涙もろく、でもちょっぴりおっちょこちょいな、
如何にもナニワな感じの、所謂おっちゃん。かねがね金が、ねぇ……。

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バイトくん……いつも人騒がせな支配人に対し、常に冷静でクールなアルバイト。
映画青年。娘さんに対する思いは本物……なのか自分でもよくわからない。

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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。

http://komadori-books.jp/

 

Twitter:@komadoribooks

※FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

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