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天神橋駒鳥シネマ vol.6

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「なんかちょっと見ないうちに、ええ仕事するようになりましたね」

いつもまったく仕事をしない館長の駒鳥さん、
今月は珍しく自ら特集上映を企画したんです。

しかも日本映画史に残る早世の天才「山中貞雄」の特集上映。

本当にどうしちゃったんだろうと、アルバイトの僕は少し心配になったりして……

 

 

 

「うっさいわい。わしの仕事はすべて『良し』じゃ!」

 

「いやでも山中貞雄は本当にいいですよねー。僕、大ファンで、
DVD回転しすぎて飛んでくじゃないかってぐらい何回も観てますもん。
ホント、ありがとうございます。感謝感謝」

 

「なんや珍しいなぁ。ちょっとお前、頭飛んどんちゃうか?まぁでも、
今回のことでわしの凄さがわかったやろ?ほれ、もっと褒めい褒めい!」

 

「(ちょっと褒めたらすぐ図に乗ってからに)本当、あの戦争で28歳で夭折しなければ、
黒澤明をも超える世界的な映画監督になっていてもおかしくないですからね、山中貞雄は。
笑いあり涙ありの王道娯楽の『丹下左膳餘話 百萬兩の壺』に、
丁髷ものの皮を被った現代悲劇『人情紙風船』、そして15歳の原節子が眩しい
『河内山宗俊』と、若い僕が観てもどれもこれも面白いですし」

 

「今日はえらい喋りよるなぁ。いつもブッサイクな顔してムスっとしてるのに」
「(今日は我慢我慢)でも本当、そんな山中貞雄監督がそ23歳で監督デビューして、
わずか5年の監督生活で撮った22本のうち、現存するものがたった3本しかないなんて……
これは日本映画界最大の不幸ですよ!」

 

「……まぁ、そうなっとるけどな。とりあえず今日が最終日、
ニコニコ笑顔で働いてたら、なんかええことあるかもよ」

 

 

ハイハイ、言われなくても働きますよ。とは言え、さすが山中貞雄。
駒鳥シネマには珍しくお客さんがわんさか、モギリに掃除に案内に今日は大忙し。

 

 

寒かったら膝掛けありますのでパンフレットおひとつありがとうございます
お手洗いはあちらですまもなく開演いたしますので携帯電話の電源は何たらかんたら……

 

 

***

 

 

あー今日は働いたー。ってか、もう少し館長も手伝ってくれたらいいのになぁブツブツ

 

 

「ご苦労さん!今日はバイト君よう働いてくれたから、お礼にええもん観せたるわ。
とりあえず劇場ん中入って座っとき」

 

「わ、どうしたんですか今日は!?でも、山中貞雄独り占めできるのはいいですね。
三本のうちどれでもいいですよ!楽しみだなぁ!」

 

 

 

〜暗転。映写機より一筋の光。〜

 

 

街道筋の茶屋が映る。渡世人と茶屋の娘?はてあの三本の冒頭ってこんな感じだっけ……

 

『姐さん草履あるかい』

 

『え、ございます』

 

『そうかい、じゃ一つくんな』

 

『はい』

 

 

 

違う……3本のどれでもない!え!?もしやこれは幻の……

 

 

 

『監督 山中貞雄』

 

えええええええええええええーっ!?なんでこんなところに現存しないはずの
山中貞雄作品のフィルムが!?今すぐ駒鳥サンに問い質したい!でも……目が離せない!!!!!!

 

 

 

ー2時間後

 

 

 

「こ、駒鳥館長!なんでこんなところに山中貞雄の未発見フィルムがあるんですか!
事件ですよ!国宝級ですよ!!ねぇ駒鳥サンッ!聞いてるんですか!」

「ちょ、そないガタガタ揺らすなや。ええい、離せ離せ!」

 

 

「ハァハァ……すいません、取り乱しちゃって。
でもなんで駒鳥サンがこんな凄いもの持ってるんですか?」

 

「ハァ?今さっきの『人情紙風船』やんけ。お前も観た事あるはずやろ?」

 

「え?いや、でも、森の石松が出てきて、そんで……」

「お前やっぱ疲れとるんちゃう?そんなもんここにあるはずないやろが。タワケ」

 

「そう言われたらそうなんですけど……でも確かに」

 

「ハイハイ。君それ疲れてるんだよ。もう今日は帰って早く寝た寝た」

 

 

帰り道。確かにあれは「森の石松」やったと思うんだけどなぁ。
でも映写室にもどこにもフィルムなかったし……あれは夢やったんかなぁ……でも絶対にあれは……

 

 

 

天神橋駒鳥シネマ……ますますわからなくなってきた……

 

 

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「今月の上映作品」山中貞雄

 

昭和7年『磯の源太 抱寝の長脇差』で監督デビュー後、
矢継ぎ早に作品を発表するもその5年後、戦争のため僅か28歳でその障害の幕を閉じた、
日本映画史上不世出の天才。

5年間の監督生活で発表した監督作品は、全26本(応援監督2本含む)であるが、
ほとんどのフィルム原版が紛失、もしくは戦災で焼失したため、
まとまった作品として現存するのは現在『丹下左膳余話 百萬両の壺』、
『河内山宗俊』、『人情紙風船』の3作品のみ。

しかしその韻文調の流麗なスタイルは、映画芸術の世界に不滅の光芒を放っています。
ちなみにバイト君が観た(かもしれない)作品は『森の石松』。
シナリオが残されているので、現在でもその作品世界を垣間見ることができたりします。

 

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【登場人物紹介】

駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館、「天神橋駒鳥シネマ」の館長。
お人好しで涙もろく、でもちょっぴりおっちょこちょいな、
如何にもナニワな感じの、所謂おっちゃん。寅さんに憧れて、夏でも腹巻きは欠かせない。
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バイトくん……いつも人騒がせな支配人に対し、常に冷静でクールなアルバイト。
おそらく学生。態度には出さないものの、「天神橋駒鳥シネマ」のバイトを結構気に入っている。
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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。

http://komadori-books.jp

Twitter:@komadoribooks

※FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

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