天神橋新聞は大阪府天神橋の粋な情報を発信するWEBマガジンです。

天神橋駒鳥シネマ vol.5

 

 

 

 

靴は脱いで揃えた方がいいよな……。

 

橋の欄干から足元の淀んだ川の流れを眺めつつ、男はそんなことを考えた。
気がつけば四十を過ぎ、友も無く女も無く、もちろん定職も貯金もあるわけでもなく。
薄くなった頭髪を撫でつつ、濃い味つけなのに何故か味気ない

 

コンビ二弁当をぶら下げた派遣仕事からの帰り道。

 

ふと我に却って今までの人生を振り返ってみると……
ビックリするぐらい何もない、空っぽすぎる四十年。
こんなはずじゃなかった。あまりの空しさに、思わずひとり四畳半で食べるはずだった
コンビ二弁当を川へ投げ捨てる。涙が止まらない。
もうそろそろいいよな。オレ、今までそれなりに頑張ったよな……

 

「ちょっとそこのおっさん!」

 

もしかしてオレのこと?と大声の方を振り返ってみると、目の前に広がる大量の紙吹雪。
何が起こっているのか理解できないまま、ひょいと一枚拾って見てみれば、
それはどうやらどこかの映画館のチケットのようだ。

 

「ほら!ボーッと突っ立てないで、拾うの手伝ってや!!」

 

何故か見知らぬおっさんに頭を叩かれて、気がつけば無理矢理チケットを拾い集めさせられて……
オレの人生はいつもこんな理不尽なことばかり……。

 

「ひい、ふう、みい……よかったわー。奇跡的に全部あるわ。ありがとうなおっさん!」

 

 

 

お前の方がおっさんやろと思いつつ、何とか二人掛かりでチケットを
全て拾い集めることができ、最後にいいことできたかなと、少しだけ余韻に浸ってたのに。

 

 

「印刷屋の帰りに何故かチケットがバラけてもうて。ホンマそこにおっさんおって助かったわ。
で、おっさん、こんな夜中に橋の上で靴脱いで何しとってん?」

 

う……どう答えたらいいんだろう。まさか正直にここから川に……何て言える訳ないし。
神様、まさか最後までオレの人生の邪魔をするんですか?

 

 

「まぁええわ。若いお姉ちゃんならともかく、わし中年のおっさんに興味ないねん。
せや!これわしの映画館の鑑賞券やねんけど、お礼に一枚やるわ!
何してたんか知らんけど、それ映画観た後でも問題ないやろ!ほれ」

 

 

去り際に手渡された映画のチケットには「駒鳥シネマ鑑賞券」という文字と
映画のタイトルが書かれていた。

 

 

 

 

映画館なんて、学生の時以来だと、何だか少し懐かしくなって、思わず来てしまったが……
まぁ、只だし最後に映画を観てから……というのも悪くないか……。

 

 

ふむ。どうやら未亡人がひとりで切り盛りするも、全然流行らないラーメン屋を、
偶然やって来たトラックの運ちゃんが繁盛店に変えていく……
その名もラーメン・ウェスタンか。

 

ハハハ。何だそれ。

 

……それにしても、ちょっと変なやつもいるけど、みんな楽しそうにごはん食べるなぁ。
そう言えば食事が楽しくなくなったのっていつからやろう。
毎日食べてるコンビニ弁当なんて、単に噛んで飲み込む作業だったもんなぁ。
何か、久し振りに腹が減ってきたかも……。

 

「どやった?この映画は?」

 

「はぁ。とりあえず……ラーメン食べたくなりました。」

 

 

「せやろ?人間なんて飯食って美味しかったら、それだけで幸せなるんやから。
ごちゃごちゃ考えててもしゃーない。今からわしと一緒にラーメンでも食べに行こか!」

 

 

……そうだよな。まずは美味しいラーメンでも食べて、それでいいか。

 

 

 

 

 

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「ってか、駒鳥サン!お客さんと仕事サボってどこいく気ですか?!」

 

「まぁまぁ。ええやんええやん。バイト君、後はよろしく頼んだで!
……あ、そや。このポケットのゴミ、捨てといてな」

 

 

と、ポンとくしゃくしゃの紙くずをバイトのボクに放り投げ、
駒鳥サンは男とともにどこかへ行ってしまいました。

 

やれやれ……と思いつつ、何気に紙くずを広げてみると、
それは明らかに手で封を引きちぎられた、印刷屋さんの包装紙でした。

 

 

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【今月の上映作品】「タンポポ」(1985)

監督:伊丹十三

主演:山崎努・宮本信子 上映時間:115分

売れないラーメン屋を立て直す、伊丹十三の脚本・監督による
ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画。まだブームにもなっていない時代に、
ラーメンを中心とした「食」をテーマにするという、時代を先取りしたテーマと、
西部劇のような娯楽性を併せ持つ、これぞ伊丹映画!と呼ぶにふさわしい作品。
観ると思わず澄んだ醤油味のラーメンが食べたくなり、そして生卵に
ちょっぴりウッとくる、そんな映画です。

 

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【登場人物紹介】

 

駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館、「天神橋駒鳥シネマ」の館長。
お人好しで涙もろく、でもちょっぴりおっちょこちょいな、
如何にもナニワな感じの所謂おっちゃん。どう考えても映画が好きなようには見えない。

 

 

バイトくん……いつも人騒がせな支配人に対し、
常に冷静でクールなアルバイト。おそらく学生。
態度には出さないものの、「天神橋駒鳥シネマ」のバイトを結構気に入っている。

 

 

男……これからはフリーターの時代!という世間の風潮に翻弄された、
根は真面目だけど、ちょっと要領と運が悪い男。このあと向かった先のラーメン屋で
後の女房となる女性と出会うのだが、これはまた別のお話し。

 

 

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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。

 

http://komadori-books.jp

http://komadori-shimaiten.jp

 

Twitter:@komadoribooks

 

FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

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