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天神橋駒鳥シネマ vol.3

 

あぁ。なんだかこう、胸の奥がザワザワする。もしやこれは……

 

 

「恋やな」

 

 

「な、な、何言ってんですか館長!?そんなわけあるわけないですよ!」

 
 
「せやかてお前、さっきからボーッとして、目ぇなんかハートになっとるで」

 

 

「もう止めて下さいよ!こう見えて真面目に働いてます!ただ、ちょっと考え事してただけです!」

 

 

こういうとこだけはイヤに勘が働くなぁ。もっとそれを仕事に生かせば、この映画館も繁盛……
いや、無理か。

 

 

それはさておき、こんな駒鳥館長でも一応人生の先輩。ちょっとだけ聞いてみようかな。

 

 

「そう言えば館長。たまにうちに来る、若くてきれいな女性がいるのをご存知ですか?」
 

 

「ほれ見てみい!恋バナやんけ!」
 

 

「(何で嬉しそう?)それはもういいですから。いやね、明らかにうちのお客さんの中では
浮いているというか、場違いというか、何でよりによってうちに来るのかなぁと」

 

 

「そんなもん映画観にきてるに決まってるやろ。
知らんけど、わしはお金さえ払ってくれたら誰でもかまへん」

 

 

「(やっぱりこの人に聞いたのは失敗か)それは僕でもわかってます。
見た目はたぶん僕と同い年くらいなんですが、どう見てもいいとこのお嬢さんで、
絶対お洒落なシネコンとかの方が似合う……って言うか、
うちみたいな小汚い映画館が圧倒的に似合わないんですよ」

 

 

「悪かったなぁ。とりあえず直接聞いてみたらええやろ。何やったらわしが聞いてみたろか?」
 
 

 

「わわわ、ダメです!絶対ダメ!館長が話しかけたら彼女が汚れる。」

 

「どういう意味や。まぁ、ええ。で、その娘が来るんは、何かこう、
規則というか、法則みたいなもんあらへんのかいな」

 

 

「そうですねぇ、曜日とか時間帯はバラバラですね。映画自体もジャンルとか特に決まってないし」

 

 

「観に来た映画のタイトルとか覚えてるか?」

 

 

「大体なら。ええっと。この前は『かもめ食堂』に、その前は『ギターを持った渡り鳥』だったし、
あ、『カッコーの巣の上で』とか『こうのとり、たちずさんで』もあったなぁ……あ!そうか!」

 

 

「そうや。その通りや」

 

 

 

「そう言えばうちは『駒鳥シネマ』だし、こんな簡単なことだったんですね!」

 

 

 

「よっしゃ。わしに任せとき!その娘が来そうな映画引っ張ってきたるわ!」

 

 

 

 

それから数週間。

何故だかソワソワして、その日を待っていたのですが。

 

 

「引っ張ってきたったでー!これでバッチグーや!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメー!絶対ダメー!いくらタイトルが鳥だからって、こんな鶏と◯◯したり、
お尻を開け閉めしてア◯ルダンスしたり、犬の◯を食べたりするような、
こんな最低下品な映画、彼女に観せられるわけないでしょうがー!!」

 
 

 

「そない言うたかて、もう今日からうちでかけるんやし。その娘来たらええなぁ、
ほな、あとよろしゅうー」

 

 

 

来ちゃダメだ来ちゃダメだ来ちゃダメだ来ちゃダメだ。今日に限っては絶対に来たら……

 

 

 

来た……。

 

 

「わわわ。い、いっらしゃいませ。え、えと、きょ、今日の映画は鳥タイトルですが、
その、内容があれなんで、あなたのような、お、お嬢さんは観ない方が……」

 

「ありがとうございます。でもこれ、小学生のときにすでに観てますから大丈夫ですよ。
それに私の宴会芸は『躍る肛◯』ですし」

 

 

 

……えっ!

 

 

 

「ウソですよ。それに別に鳥のタイトルだからじゃなくて、単に授業の合間の暇潰しで
来てるだけですから。とりあえず大人一枚お願いします」
「は、はぁ。ありがとうございます……」

 

帰り際の、彼女の満足げな笑顔が今でも忘れられない……
これが、彼女とのはじめての出会いだったのですが、この時はまだ彼女が
駒鳥シネマに来る本当の理由を、僕は知らなかった訳で……。

 

 

 

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【今月の上映作品】

 

「ピンク・フラミンゴ」(1972)

監督・製作・脚本・撮影:ジョン・ウォーターズ
主演:ディヴァイン ミンク・ストール他 上映時間:92分

 

「カルト映画の帝王」ジョン・ウォーターズ監督の代表作。
エキセントリックな登場人物たちが、「世界で一番下品な人間」の座を争うという、
非常に低予算で作られた至上最低の悪趣味映画。ラストシーン、
本物の犬の◯を食べるシーンは伝説的。にもかかわらず今日まで多くの人々に愛されるのは、
根底に流れるウィットと知性のお陰か。この映画を観る前に、
同監督の「シリアル・ママ」や「ヘアスプレー」、「クライ・ベイビー」で
耐性を獲得しておくのがおすすめ。

 

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【登場人物紹介】
駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館、「天神橋駒鳥シネマ」の館長。
お人好しで涙もろく、でもちょっぴりおっちょこちょいな、
如何にもナニワな感じの所謂おっちゃん。
寅さんに憧れて、夏でも腹巻きは欠かせない。

 

バイトくん……いつも人騒がせな支配人に対し、常に冷静でクールなアルバイト。
おそらく学生。態度には出さないものの、「天神橋駒鳥シネマ」のバイトを結構気に入っている。

 

娘……場違い感が半端ない、駒鳥シネマには勿体ない(?)程の、正真正銘の可愛いコちゃん。
大学生。謎多し。

 

 

 

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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。

 

http://komadori-books.jp

http://komadori-shimaiten.jp

 

Twitter:@komadoribooks

 

FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

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