天神橋新聞は大阪府天神橋の粋な情報を発信するWEBマガジンです。

天神橋駒鳥シネマ vol.2

 

 

 

Scene2:ラブ・シネマ・極道

 

 

 

 

「おい。このチンピラの目隠しと猿ぐつわ取ったれ」

 

 

 

 

 

「ヘイ、組長」

 

 

 

 

 

こ、ここはどこや?薄暗くて椅子がぎょうさん並んでる……そうか、これどっかの映画館やわ。
しかし小汚い映画館やな……そや、それよりも詫びや!とにかく組長さんに早よ詫び入れんと!

 

 

「か、かもめ組に泥塗る様な真似して、ホンマすんませんでした!オ、オレが悪かったです!
か、金なら払います!だ、だから命、命だけは……」

 

 

「……お客はん、いくらワシら三人だけや言うても、
映画館では静かにせんとマナー違反でっせ。
ねぇ、オヤっさん」

 

 

「そうや。子分の言う通りや」

 

 

もうあかん。オレ、もうここまでや。ホンマやったら今ごろ大金手にして、
フィリピンかどっかで豪遊してるはずやったのに……スマン。明美、スマン……。

 

 

「今から、おまえと、映画を、観る!」

 

 

……!?へっ?く、組長さん、ど、どういうこと?

 

 

「お前、何で組長が怒ってるか、わかっとらんのかいな!?」

 

「ア、兄貴、そ、それは、オ、オレがかもめ組通さずシャ◯を……」

 

「……何の話や?」

 

「え、ちゃ、ちゃいますの?そしたらもしかしたらオレと明美の事で……?」

 

 

「このボケ!組長が怒ってるんはそない小ちゃい話ちゃうわ!もっと大事なことじゃ!」

 

 

「まぁ、ええ。とりあえず今から一緒にこの映画観たらわかる話や。
おい、お客はんにポップコーンでも食べさせてやりいや」

 

「へい。ほらアーンせんかい!」

 

 

あの子分さんの怒りよう……オ、オレ、何か組長さんにとんでもないことして……

パク……

しもたんや……

パク……

ないやろか……

パク……

ってか子分さん、何で等間隔にひとつずつポップコーン口放り込むんやろか……。

 

 

ブザー鳴った……

パク……

ライトが消えた……

パク……

でも、一体何の映画やろ?仁義なき戦い?ミナミの帝王?もしや……

パク……

闇金ウシジマくん!?おれも映画の登場人物みたいに◯されるんやろか……

恐い、オレ恐い……パクって、

 

ちょっとポップコーンもうええねんけど。

 

 

お、始まった。

 

 

 

 

「へっ!?こ、こ、これ?……パク……マジか?マジっすか!?」

 

「うるさい!黙って観んかい!組長が集中できんやろが!?」

 

「ス、スンマセン……パク……子分さん!!!!!」

 

 

 

うわー。何やねん。なんで今頃「恋空」やねん。

明美に無理矢理一緒にDVD観さされたけど、やれ妊娠だー末期ガンだーと、
次々と不幸が襲ってくる割に結局あっさり立ち直る主人公に、ありえへんわーの連続で、
ごっつい観てて苦痛やったわこれ。

でも明美はあんなもんで泣きまくって鼻じゅるじゅる言わせて。
あん時のあいつは可愛かったなぁ。そう言えばこん時の話、兄貴にもしたことあったなぁ……

ええ女やったなぁ……明美……パク。

 

 

「ね?オレ言うた通りでしょ?これ最後、主人公の美嘉が○○なって○○して……って、
ホンマしょーもない結末でしょ?せやのに明美のヤツ、
鼻じゅるじゅる言わせて号泣してたんですわ。こんなんで泣くアホ、明美ぐらしかいてませんわ!
アハハハ」

 

 

って、兄貴も舎弟も号泣してますやーーーーーーん!!!!

鼻じゅるじゅるですやーーーーーーん!!!!

 

「……そうや。その通りやったわこのボケがー!!!!
ワシが楽しみにしてた恋空の結末、先に言いやがってワレー!!!!
お陰で涙が半分しか出んかったやんけ!南○じゃ!お前みたいなんは○港へ沈めたるー!!!!」  

 

 

 

 

***************

 

 

「おいバイトくん。さっきのおっさん、あれ何や?『明美ー』って泣き叫ぶチンピラが、
ヤーさんみたいなんに引きずられて行きよったで……パク」

 

「(また売店のポップコーン勝手に食べてる……)さぁ?何か親分みたいな方が『わしの恋空返せ!』とか何とか叫んでたのは聞きましたけど……」
「せやけど三人とも泣いて鼻じゅるじゅるやったさかい、廊下びっちゃびちゃやで。
あれ、そんな泣ける映画なんか?」

 

「……ボクはあまり興味がないからなんとも。何だったら駒鳥サン、今から観てみます?
それとも廊下の掃除してくれます?」

 

「アホ。ワシ、こう見えて働く時は働く、ジッと手を見る真面目系勤労中年なんよ……
さて、映画観てこよーパクパクパクー」

 

 

今日も天神橋駒鳥シネマは、相変わらず飛ぶ鳥落とされる勢いです。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

【今月の上映作品】

 

「恋空」(2007)

 

監督:今井夏木 主演:新垣結衣・三浦春馬 上映時間:129分

 

2007年公開の当時流行したケータイ小説を原作とした恋愛映画。
当時の女子中高生の心を鷲掴みし、観客動員数約314万人、興行収入39億円のヒットとなったが、
その年度最低の映画を選出する文春きいちご賞で2位を記録。
ちなみに組長は公開当時、別の組との抗争でスクリーンで観れなかったため、
いつかリバイバル上映されるその日のために、あえてDVDでは視聴せず、
今か今かと真剣に心待ちにしていた模様。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

【登場人物紹介】
駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館、「天神橋駒鳥シネマ」の館長。
お人好しで涙もろく、でもちょっぴりおっちょこちょいな、
如何にもナニワな感じの所謂おっちゃん。
寅さんに憧れて、夏でも腹巻きは欠かせない。

 

 

バイトくん……いつも人騒がせな支配人に対し、常に冷静でクールなアルバイト。
おそらく学生。態度には出さないものの、「天神橋駒鳥シネマ」のバイトを結構気に入っている。

 

 

 

 

組長(オヤっさん)……泣く子も黙る暴力団「かもめ組」組長。根っからの武闘派として知られ、
極道の中の極道と呼ばれるが、実は三度の飯より恋愛映画好きな「ラブ・シネマ・極道」。


子分……恋愛映画のためならたとえ火の中水の中、組長(オヤっさん)と共に
ラブ・シネマ・仁義を貫く構成員。

 

 

 

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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。

 

Twitter:@komadoribooks

 

※FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

 

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