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天神橋駒鳥シネマ vol.8

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「バイト君、ちょっとこっち来てや。」

「ハイハイ……また何か仕事を押し付ける気ですか?」

「ちゃうちゃう。君に紹介したい奴がおるねん。あれや」

 

 

館長が指差した先には、ニット帽にメガネ、
そしてなにやら大きな荷物の入った唐草模様の風呂敷を担いだ
うだつの上がらない中年男性が、扉の向こうからこちらをこっそり覗いている……

 

怪しい。

 

 

「か、館長……なんかめちゃくちゃ不審人物じゃないですか?」

「たぶん大丈夫やろ。ほら、文庫君、こっち来てバイト君に挨拶しいや。」

 

 

「……恐怖奇形人間」

 

 

「……え、なんて?それってもしや……ボク?」

 

 

 

「……獣人ゴリラ男」

 

 

 

「人のこと言える顔か!か、館長!この人初対面でボクのことゴリラ男て……」
 

「まぁまぁ、間違いでもないからええやないか。文庫君は映画のタイトルでしか
会話できへんねんから許したってや。ほら、ちょっとこっち来てみ」

 

 

 

「……戦慄!昆虫パニック」

 

 

 

ナンノコッチャ。

とりあえず渋々こちらにやってはきたものの、
途中何もないところで躓き大転倒。風呂敷の中身が
ロビーに派手に撒き散らされる……掃除したばっかりなのに……。

 

 

「……仕方がない、手伝いますよ。なになに『映画は頭を解放する』に『映画は戦場だ』、
それに『闇への憧れ 所詮、死ぬまでのヒマツブシ』に『すっころび仙人の人生論』って、
これ、全部映画の本じゃないですか。」

 

 

「そやねん。文庫君は元々映画専門の古本屋やってたらしいんやけど、
全然儲からんくて潰れてもうたらしいわ。で、路頭に迷ってたんを拾ってきてん。」

 

 

「拾うって……で、どうするんですかあの人。まさか飼うわけにもいかないでしょ?」

 

「かと言うて段ボールに入れて捨てるわけにもいかんやろ。
文庫君、とりあえずバイト君に教えてもらって、しばらくうちの仕事でも手伝うてや。」

 

 

そんなわけで、何故かボクが文庫君の面倒を見ることになったのですが。

 

 

 

「館長!あいつどうにかしてくださいよ!」

「なんや?文庫君が何かやらかしたんか?」

「あの人どうやら住む家がないみたいなんです。
それで、館内に古本を積み上げてカマクラ状態の小屋作って、そこで寝泊まりしてるんですよ!

 

 

「まぁそれぐらいええやないか?誰の邪魔になるわけでもないし。」

「いやいや、それが隅の方ならまだ可愛げがあるんですが、
よりによってロビー入り口ど真ん中ですよ!」

 

「裏から入れば済む話やないか。」

 

 

「お客さん全員が裏口から入退場ですか!……
それにですね、仕事全然しないんですよ!掃除お願いしても
『カルメン故郷に帰る』言うてカマクラに篭りだすし、モギリやってって頼んでも、
『カルメン純情す』って何故か恥ずかしがってすぐカマクラ篭るんですよ!」

 

 

「木下恵介アワーやな。」

 

「そんなことどうでもいんです!もう毎日怒鳴りすぎて声ガラガラですよ!
仕事をさせようにも全然言うこときかないわ、そもそも何もできないし!
もう、ボク、あの人の面倒見ませんからね!」

 

 

 

「……バイト君。嫌なもんを嫌というのは簡単や。
でも、たとえお前より年が20ぐらい上でも、それでも立派なお前の後輩や。
後輩っつうもんは、先輩の背中みて育つもんや。言わば自分自身を写す鏡や。
文庫君を見捨てるってことは、自分自身を見捨てるってことやで!」

 

 

 

……なんか微妙に話が違うような……
でも、ボクと文庫君は違うわけで、無理にこちらに従わそうとしなくてもいいのかも……
文庫君にやらせるのではなく、できることを見つけてやって、
文庫君らしく仕事ができるようにしてやる方がいいかもなぁ……ってか、
文庫君、40過ぎか……アイタタ。
でも、そんな文庫く……イヤ、文庫さんも、ボクにとっては初めての後輩だからな……

 

 

 

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「……館長」

 

「どや?あんな後輩欲しなったやろ?」

「あんな後輩?あんな盃交わした親分殺したり、
かばってくれた面倒見のいい先輩の兄貴たちを逆ギレして刺してしまったり、
挙句自分の所為で死んだ女のお骨をじゃがりこみたいにポリポリ齧ったりて、
渡哲也、まったくいいところがないじゃないですか!めっちゃ怖かったですよ!
もうあれホラーですよ!ドン引きですよ!
あんなヤ◯中の後輩なんか絶対嫌ですよ!さすがに文庫く……
文庫サンはそこまでひどくはないでしょうけ……ど……」
 

 

 

ふと、古本カマクラの方に目をやると、本の頁を千切っては口に入れ、
ムシャムシャしながらニヤリと笑う文庫さんの姿が……

 

 

「ギャアアアアアアアアーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

そうです。恥ずかしながらあまりの恐怖で思わず逃げ出してしまったんです……
我ながら情けない……。後で聞いたらボクの逃げ出す姿を見て、
文庫さんは大爆笑していたそうです……チクショー、いつか仕返ししてやる!

 

 

「文庫君、バイト君おちょくるんはその辺にしといたりや。」
 
「……日本一のワルノリ男!ククク」
「やれやれ……まぁ、バイト君と文庫君の、これが友情の始まり……なんかなぁ?」

 

 

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【今月の上映作品】「仁義の墓場」(1975)

 

監督:深作欣二 出演:渡哲也、梅宮辰夫、ハナ肇、田中邦衛ほか

 

上映時間:94分
「仁義なき戦い」で有名な深作欣二監督が渡哲也を主演に据えた
「実録ヤクザ映画」の怪作。実在のヤクザ石川力夫の生涯を描いた作品で、
その破天荒で破れかぶれの壮絶な人生を、当時病み上がりの渡哲也が、
これまた恐怖感すら与える強烈な演技はまさに狂気の一言。
中には仁義なき~を抑えてヤクザ映画ベストワンに押す映画人も多い、
特にマグロ!のイメージしか渡哲也に持っていない方におすすめの1本。

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【登場人物紹介】

駒鳥サン……天神橋の片隅にある(かもしれない)架空の映画館
「天神橋駒鳥シネマ」の館長。お人好しで涙もろく、
でもちょっぴりおっちょこちょいな、如何にもナニワな感じの、
所謂おっちゃん。拾い物する癖あり。
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バイト君……いつも人騒がせな支配人に対し、常に冷静でクールなアルバイト。
映画青年。意外と怖がり。
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文庫君……駒鳥シネマに居候することになった、ちょっと変わった元古書店主。
大阪天満宮参道に実際にある某古本屋の店主とは、全く関係がない……はず。

 

 

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【執筆者紹介】

村上 淳一

コーヒー淹れたりイベントやったりモノ書いたり喋ったり。

でも本当は駒鳥文庫という映画関連古書店の店主、だったような。
http://komadori-books.jp/

Twitter:@komadoribooks

※FM802 〝BEAT EXPO〟の「水曜エキスポ映画部」にも映画部員として出演中。

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